double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

小説 仮面ライダー響鬼


著者:きだ つよし
出版社:講談社 (2013/5/23)
ISBN-10:4063148564
ISBN-13:978-4063148565


今度の『響鬼』は江戸時代!
現代の話だった本編と戦国時代を舞台にした映画版をつなぐ時代設定となっております。というわけで同じ「響鬼」と呼ばれる青年が主人公ですが、人格は別。しかし、その名に相応しい、わたしたちの知っているヒビキさんをほうふつとさせる人物になっています。
時代小説…というか伝奇小説っぽい感じで、このノベライズシリーズのバリエーションが広がりますね。
それでは以下ネタバレです〜。



戦国の世も終わり江戸幕府の時代…吉野に隠れ住み人知れず魔化魍という化け物を退治する「鬼」の一族がいた。その一族のひとり「響鬼」ことヒビキは親もなく師もなく、飄々と過ごしながらも変わり者としてみなから煙たがられていた。
ある日幕府から訪れる使者。かつて吉野から追放された「谷の鬼十」により生み出された「化身忍者」が暗躍しているという…謎を追うヒビキとその仲間。しかしその前に「変身忍者 嵐」ことハヤテがあらわれる。ハヤテは「谷の鬼十」の息子、そして父の名誉を取り戻すために自ら人をやめ「化身忍者」となった男だった。
自らを追い込み、同族と戦うハヤテの姿にゆさぶられるヒビキ。力とは、戦うとは、自分にとって一体――
張り巡らされていた陰謀、明らかになる真実、そして過去!ハヤテとヒビキ、ふたりの異形の若者はそこになにを見つけ出すのか――!?

てなところですかあらすじ。


いやはやなんというか…
きださんはてらいのない人だなーと。あらためて思った次第であります。
どストレートな一話完結。江戸時代が舞台で、幕府と朝廷が対立してて、朝廷寄りの隠れ里があって、忍者がでてきたらこうなるよなあ、という、『水戸黄門』にあってもおかしくない見本のよーなストーリー展開。ヒロイン危機一髪もあるよ(笑)!
文章は達者だし(このシリーズでトップクラス)、構成もとってもしっかりしているのですが、っていうか達者なところに説明が充分すぎるほど充分で、故にこの…なんていうか…
物を作る人っていうのは多かれ少なかれクセがあるものだと思うのですが、ここまでてらいがない人って珍しいんじゃなかろうか。うーん、でも「そらそうなるよなあ」という気持ちで一冊読み通すのって疲れます(苦笑)。いろんな意味で裏表がなさすぎる
でも特撮ヒーロー物にはこれを求めているんだよ!という人は多いんだろうな。そういう人こそが『響鬼』のファンなんだろうし。ファンの欲しているものは供給されているんじゃないかなー。わたしはもーちょっとヒネって欲しいけども。

章題もおどろくほどまっすぐだよなあ。もうこれだけ読めばだいたい分かった(お前は門矢士か)。


とはいえそれはそれとして、今回の話には『響鬼』でやる意味っていうのがいっぱいあって、それはわたしたち平成ライダーファンにとって収穫といっていいんじゃないかな。


まず、読んでておーと思ったのが、師弟の話ではないこと。『響鬼』の大テーマがこれにはない。あるのは、ひとりのはぐれものの青年が自分の力を見つめなおす話。もっといえば「響鬼」という青年の話。ずっと伝える立場として描かれてきた響鬼」がここで初めてひとりの主人公として語られる。意味があることだと思います。

「化身忍者」というライダーで言うショッカーみたいなのが出てきたことにより、「響鬼」ことヒビキに人を斬るという命題を課したのも良し。

また本編でも映画版でもあんまりクローズアップされなかった、そもそもの仮面ライダーのテーマである「同族同士の戦い」「親殺し」「自己否定」、それが今回は「嵐」ことハヤテに大きく託されて展開されているのも大事なところです*1。そのハヤテと対峙し「響鬼」ことヒビキもまたそのテーマに踏み込んでいくわけです。…きださんは律儀な人だなあ。2Pしかない最終章のあの締め方とかね!わたしなんぞは平成ライダーしか知らんファンですが、仮面ライダーそのものに思い入れのあるファンは嬉しいだろうなあ。

変身忍者嵐』!に関しては、すみません、わたしはまっっったく知らんのですが、『響鬼』の原型ってのは聞いております。これはコアなファンには「キターーー!」といったところでしょうな。二次創作とかでも妄想はされていたでしょうが、オフィシャルがやるってことに意味がある。思うに、これがやりたかったから江戸時代の話にしたんじゃないかなー。

それにしても今回特に思ったのは、「響鬼』って設定がバリエーションを生むんだなあ」ということ。これは映画版で思い切って戦国時代を舞台にした功績が大だと思いますが。
本編の登場人物の話でなくても楽しめるんですよね。仮面ライダーシリーズとかガンダムシリーズとかみたいに、要素を満たせば名乗っていい、みたいな感じ。明治とか昭和の『響鬼』とかもイケるし、逆に近未来の『響鬼』もアリだろうし。
特に人物のつながりはなくても『響鬼』の世界が拡張したと捉えられる。これは『響鬼』の魅力ですね。


最後に気になったことをひとつだけ。女だてらに「鬼」になるサキちゃんですが、それが「佐鬼」ってのは物足りないなあ。「佐」の字に不満だよ!
太鼓使いだから「響」とかギター突き刺すから「斬」とか名前の漢字に意味があるのがそれっぽいんじゃないか。「佐」をそのまま読んだら「たすける(補佐の佐ね)」の意味になるけどそれじゃあつまらなすぎるっつーか脇役じゃないっすか名前からして。
『電王』のゼロノスこと桜井侑斗も「たすけて」「たたかう」で思いっきりサブとして名づけられてましたが、あれはいいんだよだって2号ライダーなんだから。サキちゃんも「鬼」なんだからもっと華やかにしてあげようぜ!
素早さに特徴があるんだから「早鬼」とか「颯鬼」とかもうちょっといろいろあったと思うよ!もったいない!

*1:『DCD』でも…と思ったらあれはちゃんとやってたなそういえば