double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

夏になると思い出す 凉のための物語

相変わらず5月は暑いですね。
梅雨を挟むので実際には夏はまだ遠いはずなのですが、なんだか瞬間的に季節が進んだように感じてしまいます。
そして、暑くなると水場を思い、水場を思うと『アギト』を思い出してしまうのです。

冬に始まって冬に終わる話なのに、こうも夏の日差しのイメージが強いのは、水がモチーフの物語だからでしょうね。
命が始まる海が起源の物語。それが人の進化をテーマにした『アギト』でした。
でも、夏=水で次に来る連想先は、主役の翔一くんでもなければあかつき号の英雄である氷川さんでもなく、凉だったりするのです。


新しい時代のヒーローたる翔一=アギト、愚直な人間の象徴たる氷川=G3、の間にはさまれて、一人、前時代のヒーローの名残を残す凉は少々わりを食っていたようなところがあります。たぶん出番そのものの数は変わらないと思うんだけど、活躍といってすぐ浮かばないのよねえ。あかつき号を巡る謎にも、少々遠回りだったし。
だから。もしもアレがなかったら、わたしはやっぱり凉については不完全燃焼だったんだろうな、と思います。
そのアレとは、夏の番外編「第28話 あの夏の日」です。


ちょっと前の平成ライダーにはいわゆる夏休み回がありました。8月半ば、子どもたちが旅行だなんだで放送を見れないかもしれない。また、甲子園とかそういうのでつぶれてしまうかもしれない。そのために、本筋とは関係のない番外編的一話完結話を流したものでした。
だいたいはギャグ回になるんですけど。なお『アギト』ももう一つの夏休み回である29話は氷川さんのズッコケ話です。
で、28話なんですけど、しかしこれは意外なまでに番外編。そして内容は、凉の物語。完全に、凉の、凉のためだけのお話なのです。


このお話は一回死んでしまった凉が、その死の間際に思い浮かべた回想。ある夏の日、凉が一人の少年と出会った、それだけの小さなお話です。
しかも、お話は少年の比重もすごく大きい。ある意味で、これは一人の少年が仮面ライダーに出会ったお話だと言えるくらいなのです。
それがね。その距離の取り方がね。すごくすごく…良いのですよ。

わたしはこの話を見て、ずっと誰にも心が通じず、また自分からも通じさせることが出来ず、孤独に一人彷徨していた凉が救われた気がして、だから好きなんですよ。
またね。その描き方の質が高い。分かりやすく持ち上げるような安い作りになっていない。少年に「ありがとうお兄ちゃん!」なんて言わせない。ただ、少年は凉のことを理解する。そのことが、なにより凉を救っているんですよ。

この話があるから、ほかで凉の描写が少なくったってわたしは全然かまわない。凉のことが理解されるに十分な密度があるから。


28話は夏休み番外編で、だからそれが良かったんだろうなあ、かえって。というのは、『アギト』は展開が毎回複雑に絡むから、その主筋に少しでも離れているとスポットが当たりにくい。凉が全体的にほかの二人よりも目立ちにくいのは、そこがあったんだろうと思う。
いやほんと、この話が実現してくれてありがとうですよ。

28話は独立した一話なので、『アギト』未視聴の方にも見てもらいやすいかもしれませんね。
ちなみに脚本は小林靖子さん。なお『アギト』はこの番外編以外は全話を井上俊樹御大が担当しています。そういった意味でも異色作なんですよね。骨太の御大大河の流れの中に、靖子さんの抒情が淡く挿入されて、全体を通してみても良いアクセントになっていると思います。担当の佐藤健光監督も気合入れてますしねー。飛べないカブトムシのカットはすごいよ!
ちょっとショートムービー的とすらいえるかもしれない。

まあそんな風に、異色回だから、凉が救われる話だから、というのもありますが。
28話は見方を変えれば少年の夏休みの冒険の話にもなり、そして決着は水場。だからかなあ、わたしは暑くなって夏が近づいてくるとこの話を思い出してしまうのです。
見たのは、夏でもなんでもないはずなんですけどね(笑)。