double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

小説仮面ライダーオーズ

刊行予定はいろいろと変わってきているようですね〜。
こちらではその隙に一応メインコンテンツと謳ったこれを。
ずんずん紹介して発行に追いつきたいと思います。…刊行が終わったらどうするんだろう。ねえ、自分?


著者:毛利亘宏
出版社: 講談社 (2012/11/30)
ISBN-10: 4063148629
ISBN-13: 978-4063148626

ええ話や……


まず概要から。三章構成で、それぞれの章が独立しており、アンク(グリード):過去・バース:現在・オーズ:未来と組まれています。こういう構成に凝ったの、好きです。
毛利さんは本編でもサブライターとして活躍されました。そのときの調子からして、たぶん小説として期待していい一人となると予想しておりましたが、当たり。おもしろかったです。
ゴーカイにネタバレするので畳みますね〜
第一章:アンク
たぶんみんなが最も期待したであろう800年前の話です。王が出てきたのは嬉しいサービスですが、人に依っては妄想の余地がなくなるのか?
王のモデルについてはファンの間では神聖ローマ帝国フリードリヒ2世かと言われていますが、小説内では明言はされず。でも、っぽいな。それよりも鴻上会長のご先祖ということが強調された描き方になっています。こういうとき、ビジュアルイメージがない小説の方があってますね。

内容を一言紹介するなら、いま明かされるアンクの過去! …ってところですか。
グリードとしてのアンクの特殊性とか、本編で描かれたアンクの土台がしっかり理解できるようになっていて、アンクファンは読んで損なしですよ!
またグリード勢も総登場。王を中心に、アンクとカザリの腹の探りあいとか、グリード同士のバランス関係とかの描写があり、本編へと至る伏線として見れます。

毛利さん、当時から思ってましたが、『オーズ』大好きだね!あんまし「俺解釈」をせず、作品に近づく人だなあという印象。ノベライズっつーか他媒体のスピンオフで世界を理解して、それを再現・拡大できてるってのは本当に良いですよ。

人にあらざる者たちの寄る辺ない感じが出ていて、幻想的な雰囲気がありました。

しかしこうして地の文の使い方から察するに、ビジュアル発想の人ではない気がするなあ。


第二章:バース
いま明かされる後藤バース誕生の秘密! ってとこなんですが…
最初、『バースの章』と聞いたときには、伊達さんと後藤ちゃんどっちやねんと楽しみにしていましたが、まさかのベルト目線!そうきたか!
三章構成の中の変化球で味付け的にもGOODです!
そしてたぶん毛利さんが一番ノリノリで書いたと思われる章(笑)。いや毛利さん『オーズ』大好きだな!

ギャグ編です。
なんだけどちゃんとベルトくんの成長物語となっているのが良いです。ただのネタ枠じゃねえっすよ!
それにしても後藤さんの描写が……(笑)。独り言が多いとか、無駄に筋トレしすぎるとか、やべえ想像できる(笑)。お気に入りはバースを受け継いだあとの服装を考えるところです。「これが俺のオリジナリティだ」……言いそう。
考えてみれば丸々一章オリジナルキャラなのに変な気持ちにならないのはすごいことだと思いますですよ。あとアンクとオーズの話がちと重いので、ここでバランスがとれているのも良い。
難点はちょっとネタがくどいところかな。


第三章:オーズ
てなわけで主人公キターーー!!!
とか言ってたらしょっぱなからオリジナルキャラの重い話でちょっとかったるくなっちゃったのは内緒の話。
全体に毛利さん誉めてるけど、冗長なところが多い(文章、構成ともに)……。舞台劇でアドリブやネタが長いときに感じる気持ちと同じだ……。本編担当回でもそのきらいはありましたが。

ほんでもってオーズこと火野映司くんのその後のお話。これがええ話なんですよ。

『オーズ』ってのは一回全部失ってしまった主人公が回復し前に踏み出すお話だったわけですが、その回復というのがちゃんと描かれていておねーさんは嬉しい。
また、小説自体一つの話としてキャラ小説という観点抜きにしてもまとまっていたのも良かったです。ここの感想は『オーズ』の小説ということで映司くんに焦点をおいて語りますが。
映司くんの持っている背景のせいで難しいテーマになっているんですが、正面から扱っていらっしゃいました。映司くんの「馬鹿にしないでください。平和であるってことはそんなに簡単なことじゃないんです。僕らの国に生きる人間だって真剣に戦って苦しんでます。」という台詞はなかなか書けるもんじゃないですよ。
(ひるがえって自分がこの言葉に相応しく生きているか考えてしまいますが…)
まあそのせいで読者に馴染みのない新登場の人物がメインに語られることになるので、ちょっと物足りない気分にもなっちゃったりしますけれども。

映司くんが助けることになるそのオリジナルキャラが女の人ではあるけれども母親という立場で、それがヒロイン枠って感じがしなくて良かったです。毛利さんはきちんとした人だ。
毛利さんはいわゆる「萌え」がないのが好きだなあ。ひるがえってサービス精神がないとも言えるけど(笑)

たぶん昔はただのおぼっちゃんだったろう映司くん。本編の戦いを経たいま、内戦に苦しむ砂漠の人々との触れ合い方、向き合い方は本当の意味で正しいものになっている。あの戦いで映司くんがなにを手に入れたか。いろいろ思い出しちゃうぜ…
自分をふるいたたせるために映司くんは割れたコアメダルをにぎりしめ、アンクに語りかけるんだけど、それが馴れ合いっつーかベタベタしてないのがすごく良い。毛利さんは理解しているなあ。
映司くんにとってアンクの存在は、自分に対する批判機関なんだね。迷ったとき、アンクに言い、アンクに否定され、そこで咄嗟に出てきた反論が、映司くんが求めていた答え。頭で考えても出てこない、自分自身の本当にやりたいことがアンクと対話することで現われてくる。

クライマックスの戦闘シーンは全コンボ使用もさることながら、いちいち映司くん一言コメントがらしくて可愛い(笑)。映司くんファンはたぶん喜ぶハズだ!「危ないから離れててね」とか!
最後、自分のやったことはその場しのぎであり、もしかしたら失敗かもしれない、と振り返るところが良い。じゃあなんでやったのか?それは自分がやりたいから。これが自分のできることだから。実際のところ、誰かのため、正義のため、なんかの理由じゃなくて、自分がやりたいからの方が、正しいおせっかいなんだなあ。そして、やるだけやったら身を引く潔さも。ああ良かったな映司くん。ムービー大戦で映司くんがあんなにヒーロー然としている理由がここにある。そして映司くんの物語は終わったんだね、ってことも。
この話、言っちゃなんだけど靖子さんは書かなかったろうし書けないだろうなあ、とも思う。





というわけで一つの小説として、『オーズ』のお話としてわたしは満足、おなかいっぱいです!もうこれでこのシリーズのもとはとった(笑)。
燃えたり萌えたい人にとっては物足りないかもしれないカモ。