double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

小さな地球の話をしよう〜『仮面ライダー555/ファイズ』について

今1人1人の胸の中

ファイズ』は好きと苦手が混在している作品です。
実はリアルタイム遭遇しているんですよ。一番初めに見たのはたぶん第1話か第2話、あの地下道の場面を見たのを覚えています。
一度は見なくちゃと思っていた噂の平成仮面ライダー、でもすぐチャンネルを変えてしまったのは、それが試験の日で、「朝っぱらからこんな暗い話見れるかー!」と思ったからでした。
第一印象はだいたいいつも正しい。
そう、『ファイズ』はちょっと重過ぎるのです、わたしには。

呼び覚ませ The way you go

ちょっと分かりにくかったんですよね、わたしには。最後まで見ても、この話の背骨を理解するのに時間がかかった。
でも理解できたらどうしてそう感じたのかもわかったのです。つまり、この話はオチがないんだ。主人公である巧の、木場の、啓太郎の、オルフェノクたちの生き様を描くだけの、実はそんな物語。

もちろん脚本担当の敏樹氏はさすがえらくて、きっちり物語は展開させて締めているんだけど、そういう起承転結の部分の話じゃなくて、「なにがしたいのか」の話。すごいよね、敵を倒すのがクライマックスじゃないんだもん。
「ヒーロー作品」として戦いを見せることは『龍騎』では手段だったけど、『ファイズ』ではもっと遠景に持っていかれちゃっている。…もしかしたらあれは、非日常ではなくて、日常の営みだったのかもしれないとも思う。だからあんなに自然に繋がっていたのかもしれない。

…確かに『龍騎』と『ファイズ』を通過したら「ヒーロー作品」は次のステージに移らざるを得ないよなあ…


真実を探せ

ところで、特に『ファイズ』っておもしろいなあと思うのは、俗にこれは白倉さんの集大成と言われていて、一方で脚本担当の井上敏樹の入魂の作品とも言われているところです。それ、どっちだよ、って言ったら、どっちもなんですよね。それがおもしろい。
さらにわたしはこれに加えて、これは田崎監督の作品だとも考えている。

どういうこと?それを考えるのに、わたしは『ファイズ』には三つの顔があると捉えている。
つまり、本編・小説・映画版です。このそれぞれが、同じ『ファイズ』であり、別の『ファイズ』である。
仮面ライダーファイズ』という素材に対して、本編は白倉さんの回答、小説は井上さんの回答、映画は田崎監督の回答、なんだと思うんです

ファイズ』はさっきも言ったように、オチのない物語、生き様の描写の物語だから、描写がすべてといっても過言ではない。
敏樹氏は小説版をすべて削ぎ落とした『ファイズ』の究極系と言わっしゃる。じゃあ、小説版と印象が違うすべての部分は誰の表出かなのか?それはたぶんきっと、白倉Pのもの。
映画はかなり田崎監督の裁量が入っているとわたしは感じていて、というのも他の田崎担当のライダー映画の中で『ファイズ』だけメッセージ性が強い印象を受けるからなんです。他は、仕事人としての田崎さんの職人仕上げとしてきれいにまとめようとしているんですけど、『ファイズ』だけは違う。

仮面ライダーファイズ』という素材は実はすごく恐ろしいとわたしは思う。職人的に仕上げられない。自分の考えを出さないことには描けない
そしてそれにすべてで応えられているというのも、おもしろいなと思います。

わたしは映画版が一番好きです。ってことは、田崎監督に共感しているのかな。
あなたはどの『ファイズ』が好きですか?


信じること疑うこと

巧と木場は表と裏。光と闇。…でも、どちらが光でどちらが闇だったんだろう…
最後の最後に巧と木場が決別するのが悲しくて、どうしたら共闘できたんだろうって何度か考えたんですよね、視聴後。
でも、いくつか案を出したところで気づきました。
「待てよ。そうでない道をとったら、それはもう木場勇治ではない、他のなにかだ」
三者としてどれだけ悲しくても。木場は木場として生きてああいう結末を迎えたんだ…それはもう、認めて受け止めてやるしか、ないじゃないか…

木場だけじゃなく。『ファイズ』の登場人物たちは、そうとしか生きられないくらい自分の意思を持っていた。『龍騎』ではあの道を選んだらああなるしかなかったって話だけれど、『ファイズ』はまたそれとは違って。散ったり、散らなかったり、いろいろな人生がある。そんな人生が交錯する話。

草加も、全編通してずっとムカついていたけれど、でも、最後まで改心させなかった脚本は尊敬している。だって、それが草加だから。嫌われようとどれほど卑劣であろうと、でもそれが草加雅人だから。
草加草加として生きて死んだというのは、実はすごく大事なことではないでしょうか。そしてそれを、フィクションでやり抜いたということは。
フィクションだからこそ、キレイにまとめあげて欲しい、という意見もあります。それも正しいです。
でも、わたしは、草加みたいな奴が存在できるお話の方が、なんとなく救われたりもするのです。

それにしても、台詞の一つで巧と木場の物事の捉え方の違いを表出する敏樹氏の技量の高さよ。「俺の仲間を、傷つけるな!」…この時点で、木場はもう自分の道に一歩踏み出してるんだよなあ…


Dilemmaはキリがない

さてちなみに。平成ライダーにはキャラがいっぱい出てきますけれども。
実はわたしが平成ライダー歴代通して一番自分に近いと思うのは木場勇治だったりします。見ているときは、たっくんに感情移入しちゃうんですけどね。冷静に考えると、「あれ、コイツわたしじゃね?」ってなるんです。

ほら、『龍騎』見ていて「自分にカードデッキが来たらどうするか」って妄想するじゃないですか。え?しますよね?
わたしは…最初は志高く「この力を人のために役立てるぞ!」って考えるんだけどいずれ現実の壁に負けて序盤でゲームオーバーするタイプ、だと考えています。
・・・木場じゃねえか
理想に追いつかないタイプ、とでも言いますか。いや、さすがに木場ほどスタートも白いわけではありませんが。キレイに生きようとして出来ない、というのは、すごくよくわかるんだ。
だからこそ、託せる人が見つかってよかったね、と思ったりもするのです。

その一方、託された人=巧もまた、やっと愛せる人が見つかってよかったね…なんですけど、でもやっと掴んだときにはもう死は近いわけで、それを考えるとうわーっとなります。敏樹氏のロマンチシズムめ。さすがだ。
巧のテーマソング、すごい好きです(笑)。


さまよい続ける (The)End justiΦ's the means

ちょっと苦手な部分も多いんですけどね、『ファイズ』。重くて悲しくて、あとエグいところもあるし、後半は同じところをぐるぐる回っているようなところもあって、少し疲れたりもしたし。…言いたい放題だな。
しかしエピソード単位で歴代の中から好きなのをカウントすると、軒並み『ファイズ』が上位に来るんですよねー。
とりあえず第7・8話「夢の守り人」は鉄板。第16〜21話「手の平の灰」「真っ白の波」「加速する魂」はDVD連続再生で見ると、いったいどこが切れ間なのかわからないくらいのクオリティ。とにかく画面の集中力が高すぎる。映画は言わずもがな。

またなー。全体の流れもすごいよな。中盤であの秘密が暴露されるわけですが、それまでの言葉の端々に破片がちゃんとあるんだもんな。あれ、もう伏線じゃないもんな。そういう背景のある人間だったらああいう行動をするってだけのことで、物語のための材料じゃないもんな。
他でクリエイターさんで『ファイズ』に影響されたって話を目にすることがあって、それもよくわかる。描写を重ねてあの中盤、あの最終回までお客さんを連れて行くというのは、作り手としてはおもしろかろうなあ。

ううむ、投票でblue-ray第二弾に選ばれたのもむべなるかな。好き嫌いを越えて、『ファイズ』はやっぱりすごいと思うよ。


龍騎』と同じ生き死にの物語だけれども。あっちが命を燃やし尽くす物語なら、『ファイズ』はみんな泣きそうになりながら、でもギリギリのところで諦めず、泥の中を這いながら、それでも生き抜こうとする物語。そんな風にわたしは捉えています。