double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

仮面ライダー鎧武における「運命」の意味について

わりかし、早い段階からこのネタは考えついていました。
仕切り直しのこの時期に書いておこうかなーと。

フィクションにおける「運命」

運命。という言葉は、フィクションではよく使われる言葉です。
運命の出会い、運命の事故、運命の恋……
我らが平成ライダーでも頻出の単語です。まずは『龍騎』。さらには『剣』。一番ストレートにテーマにしていたのは『キバ』でした。

運命(うんめい、ラテン語 fatum、英語 fate、destiny)とは、

  • 人間の意志をこえて、人間に幸福や不幸を与える力のこと。あるいは、そうした力によってやってくる幸福や不幸、それの巡り合わせのこと[1]。
  • 人生は天の命によって定められているとする思想に基づいて考えられている、人の意思をこえて身の上に起きる禍福[2]。
  • 将来のなりゆき[3]。

命運(めいうん)とも。

wikipediaより([1]大辞泉、[2][3]広辞苑

こうしてみると、もっぱら二番目の使い方が定番だと感じます。「運命」とは、人の目の前に立ちふさがるもの、とも言えるのかもしれません。
だからこそ、立ち向かったり、打破したり、あるいは押し流されていく姿が、物語になるのでしょう。絶対的なものを目の前にしてどうするか?というのは、人間存在にとって大きなテーマであります。

さて、なのですが。この『鎧武』で使われる「運命」は、どうもこの定番と少し違うような気がするのです。


運命は絶対か

気を付けて。あなたは運命を選ぼうとしている。

この先に踏み込めば、もう二度と後戻りはできない。最後まで戦い続けることになる…

こう主人公である紘汰にささやいたのは、白い少女――「始まりの女」です。
なにが始まりかは今の時点では明らかにされていませんが、どうやら彼女はある程度未来を見通せるようです。
白い少女、オルタナティブ舞は、戦極ドライバーの主だった所有者の前に姿を現しています。そして、上記のセリフを必ず伝えます。

さて、ここで少女の言う「運命」が絶対的なものであるならば、少女の役割はこれで終わりです。最初に告げて、後は言われた方次第。
のはずですが、ご承知の通り彼女はわりと頻繁に現れます。それぞれの登場人物のターニングポイントとなる出来事の前に姿を見せては、同様の警告をするのです。

いまならまだ、違う道を選ぶことだってできる。

運命が絶対的なものであるならば、一度選んだらあとは進むしかないはずです。ぶつかって壊すか、こちらが壊れるかの二択。しかし、どうも『鎧武』では運命とはまだある程度未確定要素を含んでいるものとして認識されているようなのです。


大きい運命と小さい運命

ここで、三番目の意味に注目してみましょう。「将来のなりゆき」です。
フィクションに親しんでいる人ならおなじみの言葉に「分岐点」というものがあります。そういえば『電王』でもキーワードになっていましたね。大きな流れの中に、そのつど、ターニングポイントがあるという考えです。これもまた「運命」の一つです。
そうです、「運命」は、避け得ない存在として巨大なものが一つある場合もあれば、障害物のように小さなそれが連続していることもあるのです。

巨大なたった一つの運命とは、『キバ』でいうところの「紅 渡はファンガイアと人間とのハーフである」というものです。また、あるいは、『龍騎』でいうところの「契約者となったものは最後の一人まで戦わなければならない」。前提条件、といったところでしょうか。これは絶対的なものです。
ひるがえって、『鎧武』ではどうでしょうか。オルタナティブ舞が警告するのは、「その選択をすると、こういうことになるから、避けろ」というアドバイスです。ある行動を選んだ場合、ある確率が高くなる、ということなのです。つまり、運命は避け得るものであるわけです。

人は未来を見通すことはできません。また、運命などという言葉を信じない人も多いと思います。
ただ、一つ選択すると、いくつかの道を手放すことになる、という理屈は、ある程度経験を積んでいる人なら理解できることだと思います。
わかりやすくいえば、Aと結婚したらBとは結ばれない、ということです。そして、Aと結婚したならば、そのときはわからなくても、ある程度その先の人生の方向性が決まる、ということです。

そして、またこれもおわかりいただけると思いますが、その小さな「運命」を選んだからと言って、方向を変えることができないわけではないのです。次の選択である程度の軌道は修正できる。むろん完全な修正はできません。が、たとえば上記の例ならAと離婚してBと再婚することもできますし、Aと生活を共にしつつ出来る範囲で方向性を変えることができるわけです。

大きい運命は変えることはできない。しかし、小さい運命は変えることができるのです。


大きな運命と小さな運命

『鎧武』での「運命」は、この三番目の意味なのではないでしょうか。

誰もが逃げられず、逆らえず、運命という名の荒波に押し流されていく。
だが、もしもその運命が君にこう命じたとしたら? 「世界を変えろ」と。「未来をその手で選べ」と。

君は運命に抗えない…だが、世界は君に託される!!

小さな「運命」は誰の道の上にも存在します。それは一歩踏み出したらどうしたって出会うものです。
小さくても「運命」は固くて強くて重い。人はその試練に、逃げたり、なんとか乗り越えたりして、右往左往しながら生きていくことになります。
しかしその「運命」が問いかけてきたら――壊すか逃げ出すかの巨大な壁としてではなく、一つの問いかけとして向き合うのならば――

その先に何があるのか。いま、わたしはとても楽しみです。