double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

劇場版仮面ライダー鎧武 サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!

この能天気なタイトルからは想像がつかないほど、正面からド真面目に『鎧武』であった。
おもしろかった!楽しかった!…というか、引き込まれて見ました。例年より「一本の映画」感があった。


今回の脚本は鋼屋ジンさん。実は、本編も鋼屋さん登板回が好きだったりします。なんかこー、一歩引いて全体を見ている感じがあるのが良いな、と。
本編でチラ見せされた通り、不思議な少年ラピスの力で紘汰は「違う沢芽市」に迷い込みます。そこは、ヘルヘイムの森に浸食されておらず、ダンスの代わりにサッカー対決が流行している世界だった…


てなわけでネタバレですので畳みます。
驚いたのは、ここまで「サッカー」という要素が食い込んでいたこと。
誰も傷つかない、楽しい戦い。サッカーを知らない少年が見せた笑みに、どれだけの思いが込められていたのか。
けれども小さな悪意が増幅され、善意が油に火を注ぎ……人は、知性ある生き物は、やはり殺し合いをする宿命なのか。
その中にあって、一人立ち上がる強さとは。

ああ、そうだ。この映画は、正義の話じゃないんだね。強さの話だ。
悪意に、絶望に踏みにじられない勇気の話。

それは本編で繰り広げられている物語を別に語り直したものだともいえる。
周囲のすべてが敵で、信じられなくて、追いつめられたとしても。
希望を信じるということ。

この映画で紘汰はずっとヒーローだ。たぶんラピスとしてわたしたちは鎧武に助けられるのだろう。

各キャラ感想

少年の名前が「ラピス」でわたしは気づくべきだった…なにをのんきに変わった名前だなーと思ってたんだ。
いやー、いい役者さんですなあ!と思ったら、『るろうに剣心』の弥彦か(1のときのね)!覚えておこうっと。
単にさみしげと片付けられない複雑な表情をするんですよー。そのおかげで、ラピスという存在の説得力があったし、この映画全体の重々しさも担保されていた。
しかし変身、マジで一瞬!おいおい、と思ったけど、必殺技のところがすごく良かったので可。
すべてが終わったラストのカットで、ラピスの杖と腕輪のとなりにサッカーボールが置いてあったのが画面に現れた時、不覚にもウッときてしまいました。


今回わかったこと1:紘汰が笑わないと雰囲気が重いものになる
いやー、ずっとこの映画のテンションが重いまま続いていて、それはあのサッカーシーンですらそうで、すごいなあなぜかなあと思っていたのですが。
主役のおかげなんですね。
毛利脚本ともまた違うのは、たぶん紘汰のあたまのわるさがちゃんと残ってるからだろうなー。スタジアムに入った瞬間の「ええ〜!!」とか、「プロ選手までいる〜!?」の感じ、ああ、あれこそ紘汰だなあ、と。
異常事態が起こっているのは自覚しつつも、ひょんなところで素に戻るあの感じが。
いやだから、紘汰は本来は陽気な考えなしのあんちゃんなんだよ!そんな人が真面目な顔しなきゃならないからこその異常事態である。

悪魔の囁き/ブラック紘汰に一発くらわせてもとに戻るのがいいね!燃え上がる熱さではなく、静かで強烈な白熱。

ラピスのために泣いてやれる紘汰が、ああ紘汰だなあ。
佐野さんは、あの、感情に身を震わせることができるのが素晴らしいですね。


今回わかったこと2:鳳蓮さんは必ず事態をややこしくする
今回わかったこと3:凌馬は本当にロクなことをしない

スポーツマンちっくにさわやかな戒斗に吹き出しそうになったのに、周囲の誰もリアクションしてなくて辛かった。あれは笑うところだろ!
笑うところと言えば、相変わらず脈絡なくプロ選手が紹介されるのがおもしろくっておもしろくって。こらえて腹筋痛くなっちゃったよ。

いろいろズラすのかと思ったらミッチが本編の時間軸と一緒でちょっとびっくりした。しかし、衣裳が映画用すぎやしませんかね?派手。
なんで紘汰とミッチだけは元の記憶が残ってたのかなー?これだけきっちりと作っているからには理由はあるんだとは思うんだけど。
ぶどうアームズ見るの久しぶりだな、って思いました。


なんか全体的に「一本の映画」なんですよね。キャラ映画の遊びが少ない。だから、各キャラもストーリーに組み込まれて、出番があんまりなかったりする。
でも、気にならなかった。それは、書き手も演じ手ももうキャラを把握しきっているからかもしれない。カットを一つ与えられたらそこで発揮しきることが出来るんだなあ。
詰め込まれている要素はお祭り騒ぎなのに、妙に静かで、集中して見てしまいました。
うーん、例えて言うなら例年が大ゴマばかりの漫画なんだけど、今年は一コマの中に多数の人間を配置して動かしている漫画、みたいな。

サッカー×戦国×仮面ライダー

いっやー、しかし、戦闘シーンの迫力がものすごかったですねえ!
まずは、サッカーチームの小競り合いからの市街戦。ちょっと引くぐらいの軍隊っぷりでした…
去年の『ウィザード』の市街戦がとても良かったので、引き継いでスケールアップしてくれて嬉しかった。
しつこくやってくれたので、「戦争は嫌だな…」と心の底から思いました。今の時期、今の季節だけにさらに。

華麗なバイクアクション(『クウガ』を思い出すな)の戒斗さんと、ダッシュで移動する紘汰。…この話、仮面ライダーだよね…?

乱戦が色んなバージョンで繰り広げられて、燃えた。やっぱり乱戦は『鎧武』の華ですな!
でもだからなんだろう。最後にオールライダー横並びの図に激しく胸が躍った。これ、今までなかったもん!うわー壮観だなー!!!
なんかものすごく正しく「映画の豪華さ」って感じがした。

そんでもって、ガワ同士の馬上一騎打ち!素晴らしいぞあたまがおかしい!
『さらば電王』でも少しやりましたが、くらべものにならないほどのレベルアップです。いや、だって、普通に馬に乗ってアクションシーンするだけで超大変ですからね?
しかもだ。林の中で弓矢の打ち合いって、ロケーションの困難さが上がりすぎだろう!
『鎧武』のアクションってすごい速いんですよ。一呼吸に中に何回も打ち合う、という手数の多さではなくて。三呼吸くらいのアクションを一呼吸でやっちゃう。
それを馬上でやるのか!すごいな!一人じゃないぞ、決闘シーンだから二人でやってるんだぞ!

もうここ、すごいテンション上がってヤバかった。
ヒーロースーツによる馬上アクションという、ほかに転用のしにくい技術の水準がどんどん上がっていく東映特撮…

惜しむらくは最後の爆破シーンはCG合成だったことですが。まあ仕方がない。馬は愛護せねば。
んでも、あの炎の馬を切り裂くCGも超かっこよかったー!巨大戦の新しい見せ方だと思いました。


サッカーボールによるゴレンジャーストーム(違)もすごく良かった!いやー、やっぱ『鎧武』のアクションは速いのがいいわー。
シュチュエーション的にはとんちき極まりないのに、速さとキレが尋常でないから手に汗を握らざるを得ない。
ラピスの力を得てシュートを押し込む画は、すごくキまっていてかっこよかった。
らぶりんの新世界の神っぷりも良かったよ!総力かけないと倒せないわ、あれは。


例年以上に要素が多いのに、トーンが一緒なので気が付けば納得してしまっていた。すごいなあ、本当に仮面ライダーがサッカーで合戦してるぜ!

つまりこの映画は

平和な戦い→悪意と善意の増幅→殺し合い という図式であり、それが本編とひいてはオーバーロードの歴史と重ね合わされていた。
そこんとこがこの映画の特色なのかなあ。たぶん、この暗喩のおかげでわたしは集中して見ていたのだと思う。
その辺がまた例年と感触が違った理由なのかな。

本編見てないとサッパリでしょうが(というか、見ていても謎かもしれんが)、要素をこれだけぶちこんでいるのに「総体として『鎧武』になっている」というところがポイントかもしれません。乖離はしていないけれども溶け合ってはいないというこの詰め込み感…
ヘンな例えですが。コンクリート(樹脂でも可)に玩具を大量に混ぜ込んでオブジェにしてしまった、というような。
わたしは好きです、この映画。