double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

るろうに剣心 京都大火

うひゃー、堪能した!特にサブタイトルでもある「京都大火」の迫力にテンションあがりっぱなしで、本当にわたしにしては珍しく、劇場から出た後もふわふわと熱に浮かされた感覚が続きました。

漫画原作の実写化はハードルの高いものですが。これほど満足いくのはそうないですね、今後もトップクラスに語られていくでしょう。
むろん、原作を知らなくても楽しめる、一つの作品としてしっかり作り上げられています。
原作どんぴしゃ世代の一人として実に実に喜ばしい。

それにしても、とはいえ。
「これが成功したんだからほかのもだって!」という考えは、持たない方がいいんだろうな。
だってこの作品の成功は、本当にめぐりあわせが良かったからだもの。
なんというか。作り手に作る理由があると強いよね、という話である。


というわけで、映画の感想そのものというよりは、「なんでこの実写化がすごい良かったのか」を語りたいと思います。長いよ!

なぜ実写化が成功したのか?

両方見た人ならだいたいみんな同じ感想だと思うんですけど。
大河ドラマ龍馬伝』その後、だよね。つまりは。

話が前後しました。えーと、『龍馬伝』の監督は大友啓志さん。この方が、映画『るろうに剣心』の監督でもあります。
龍馬伝』は龍馬が主人公だから、当たり前の話龍馬が死ぬところで話が終わっちゃってるんですよね。もちろんその後の史実は一応語られはするんですが。
たぶんここで大友監督は引っかかっちゃったんだろうなあ。
日本と言う国の革命の時代。その只中を一年間描き続けて、否が応にも感情移入していった。でも、龍馬は途中で死ぬ。書き手も、ぷつりと宙ぶらりんになる。
その時期が過ぎて、じゃあなにがどうなったのか?あのとき血みどろになったアイツらは、アイツらの想いは、どうなったのか?

さて一方、『るろうに剣心』は明治維新から10年後という設定です。
るろ剣』は少年ジャンプ連載漫画だったんですけど。少年漫画でありながら実はだいぶ変わった話なんですよね。
幕末‐明治を舞台にした時代劇(ファンタジー要素なし)というのもそうなんですけど。葛藤の主眼が明治維新なんですよ。
過去にいろいろあって今は…というのはヒーロー物の王道です。ですが、『るろ剣』はそんな抽象的な味付けでとどまっていない。というのは、作者が相当の明治維新マニアで、しかもアイテムとして愛でるのではなく、時代そのものに寄り添ってしまう人間だったから。
結果、剣心という人物を表現していくうちに、物語は明治維新を背負った人間たちの戦後の生き方の話にまで踏み込んでいくことになった。

なんつーかもう、そりゃ『龍馬伝』の監督が次の題材に選ぶよね、という感じ。
しかも、だ。『龍馬伝』で多くの分量が割かれて描かれた人斬り以蔵。たぐいまれなる剣の腕を持ちながら、汚れ仕事に利用されるだけされて死んでいった男です。それを演じた佐藤健さんが『るろ剣』で剣心役なわけですからね。

まとめると、るろうに剣心』におけるキーワードは明治維新。それをスタッフは共有できていた。だから、実写化する際の解釈がゆるぎないのです。
というか、もしかしたら、大友監督はそれで『るろ剣』を映像化したいと思ったのかもしれないな。

正直、『るろ剣』実写化の成功の理由は特殊すぎて一般化できないと思う。
むしろこんな偶然が起こったことに感服するのみだと思う。
なんで実写化が失敗しやすいのかって、結局、スタッフが実写化する以上の意味を見いだせていないからだと思うもの。

細部の気遣い

とはいえ、ただマッチしていたから、とだけで片付けるのもいささか乱暴である。それくらい映画としてよくできていました。
台詞や展開に弛みや隙がほとんど見つけられなかったですね。どうでもいいやりとりがぱっとは思いつかない。

特に好きなのは、備前兼光(だっけ?)のくだり。この刀一振りで、試し切りをする志々雄の残虐さ/宗次郎の、強さと子どもっぽさのアンバランス/刃こぼれするほどの戦いのすさまじさ/張が出陣する理由、をすべてつなげている。
尺が長いのにそれほどダレなかったのはこういう芸があるからですね。

それから省略がうまいなあと思います。
例に出すのは1になっちゃうけど、佐之助の扱いが特に良い。
赤報隊にまつわる話は一切出していないんですが。それは、尺のない映画の中では正しい判断なんですよ。
でもちゃんと、コイツにも明治維新で背負ったモノがあると描いている。
佐之助の過去については、映画を見て興味を持った人が個々で原作を読めばいい。あるいは、原作ファンに教えてもらえばいい。
実写化するときって原作と同じにすることにこだわりすぎちゃうことが往々にしてあるんですけど。この思い切りは良いですよ。

また、今回ではニューヒロインとして操が出るわけですが、彼女の存在意義を蒼紫のために持ってきているのが良い。
原作では薫と別れた剣心の束の間の相棒という意味合いがまず第一なんですが、それをそのまま映画でやらなかったのはエラい。
蒼紫という男の良心なんですね、操ちゃんは。
またこれにより、説明がほとんどない蒼紫というキャラが立つのもニクい。

1のとき、敵を原作終盤の方から持ってきたのも良い。2を作るか決まってなかったとはいえ、これは良い仕事。
そのおかげで「京都編」をブレなく作ることが出来た。
もしはやまって、人気があるからと言う理由で蒼紫や十本刀から連れてきていたら、2以降の成功はなかったろう。
ナイスセーブ!

欠点といえば、映画としてまとまっていた1に比べて、冗長なこと。京都大火に突入するまでに少々疲れてしまいました。
残念だけど、まあ考えてみればいたしかたがない。
前後編の前篇であるからして。それと、もう一つが、原作が連載漫画であること。
新月村のエピと赤空のエピを入れたのは、もう本当に実に正しい判断なんですけど。それぞれが単独のエピソードなので、ひとつの枠の中でまとめて見せられると、なんかぶつ切り感が出ちゃうんですよね。
ただしこれは、脚本の不出来のせいというよりは、連載漫画と映画という媒体の違いによるものだろうと思われます。
1のときは割り切って作っていたからキレ味があったんだけどね。

各キャラ感想

いやあそれにしても佐藤剣心、かっこよかったなあ…。当代に佐藤健さんという稀有の若手役者がいたことも、この成功の一因である。
身体能力も高くて素晴らしい。
にしても、剣心の自分の身体を資本の一つとしか捉えていないような使いつぶしっぷりに、最後の方は怖くなってきてしまった。
そら女の子の一人にでも惚れてもらわないとアカン!生きる理由を持ってもらわないと!
あれだけの攻撃を反射的に避けきるのに、佐之助の拳は素直に受けていたのには微笑んでしまった。「なぜここに…?」「お前を助けにきたんだよ!」「かたじけない」のくだりは本当にいいな!ああ友だちができて良かったなあ剣心!

武井咲さんの薫もとても良いですねえ。最初は、このキャスティングは人気のある女優さんだからだろうな、と醒めていたのですが。
薫の、真っすぐすぎて貧乏くじを引く感じ、ちゃんと掴まれているなあ。目がとても良いですね。
弥彦ともども、今回での描写が少ないのは気になったけど、しょうがないかな。1でがっつりやったし。
剣心と再会してからの「怒ってる?」「…半分は。もう半分は…ほっとした」はもうカップル感ありありでとても良かったです。
しかしさすがに女性の筋力で峰打ちでは、あの乱戦はキツいと思うよ。

藤原竜也さんの志々雄はまあもう、さすがと言ったところ。付け加えることはありません!
三浦涼介さんの張くんは思っていた以上に良かった。(失礼)
しかし、原作の十本刀ってアメコミ衣裳度強いんで、実写になるとどうなんだって思ってたんですが、意外とハマりますね。なんか、あの時代なら、昔でいうバサラや歌舞伎者みたいなやついたかもしれないなって気にすらなりました。

土屋太鳳さんの操ちゃんは、まさに元気娘!って感じでかわいかったー。ジャンプ高!
伊勢谷友介さんの蒼紫は、まあもうそうなるよね!そりゃハマるよね!
そしてなにより(!)翁役が田中泯ですぜみなさん!ムキムキジジイのトンファー戦!ジジイのトンファー戦ですよ!しかも相手は伊勢谷友介で小太刀二刀流ですからね、いやあもう興奮しました。そこかよ?そこだよ!

アクション!アクション!

んでもってやはり、アクションが素晴らしい。
あの速さ!なんか、模造刀がしなっちゃってるって指摘もあるみたいですが、わたしはあの速さが実現している時点で文句はない。それに、刀だけじゃなくて体術も組み込まれているから、単なる絵的なかっこよさだけではない、ちゃんとダメージの説得力があるし。
ただ振り回してるだけじゃなくて、手順決まってるんですよね、あれ。どれだけのNGがあったのか考えると、ものすごいエネルギーを感じる…
全速力で走らせるしなあ。んで、それをやりきる役者さんもすごい!
特にさらわれた薫を追いかける剣心の捨て身っぷりは、佐藤さんが死んじゃうんじゃないかとすら思ったよ。命が削れるタイプの全速力。
実を言うと、今回を映画館で見よう!と決めたのは1の剣心VS外印の殺陣がすさまじかったからです。
21世紀の時代劇だな、と思う。
弥彦にまで足払いさせたのには笑った。

VS張との、床下のせっまいところを三角飛びして投げ技とか、もう本当に楽しすぎる。
1のときは広い場所での多勢のなぎはらいが見所でしたが、今回の京都大火は市街戦でのVS多勢!ああ楽しい。心の底から楽しい。

だいたいそもそも、剣心の最大の持ち味は幕末最速と謳われた抜刀術なわけで。速さに重きをおくのは実に正しいのです。
牙突については、まあいいや(笑)

ただカッコイイというアクションではない。
全身でぶつかっていく。血と汗と荒い息づかい。
この映画には、身体という資本が惜しみなく注ぎ込まれている。

後編は9月13日公開

まあ、京都から大阪湾まで近すぎんだろとか思いましたがそこは見逃しておこう。
次で決着!楽しみだー、なんとかして時間を見つけていくぞ!
しかし福山雅治があの役って、大友監督重ねすぎだよ!