double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

ヒーロー、ヒロインはこうして生まれる アニメ・特撮脚本術

わりかし今更ですが(発売は4月)、感想をば。


出版社: 朝日新聞出版 (2015/3/25)
著者:稲田豊史(編)
ISBN-10: 4022512539

6人のマエストロが語り合う創作の極意!
井上敏樹×虚淵玄
小林靖子×小林雄次
小中千昭×會川昇

ライダー、戦隊、ウルトラマンセーラームーン……。
いつの時代も熱狂を生み続ける特撮、アニメを作り上げた6人のマエストロたち。
井上敏樹×虚淵玄を筆頭に、3組6人の脚本家がそのスピリッツとテニックを語り合う!
(帯より)

てなわけで、対談集です。朝日新聞出版社ってことは、小説トリッパーに載ってたのをまとめたやつかな?
同業者同士の対談ということで、ライターさんによるインタビューよりも開けっぴろげな印象。けっこうな悩みや愚痴なんかもポロポロ見えておもしろかったです。
また、一応、脚本術と銘打っているだけあって、対談者のファンへというよりは、これから脚本家になる人を読者として念頭に置いている感じがしました。だからか、テクニック的な話や心構え、いま業界を取り巻く環境なんかがほかで読むインタビューよりもしっかり話に出ていました。

組み合わせがなかなか妙ですよねー。敏樹×虚淵はたぶんみんな読みたかったろうし、W小林は『セーラームーン』つながり。小中×會川は、わたしは昭和特撮とかウルトラマンはいっさいわからないのですが、それでもこの組み合わせが聞きたい話なんだろうな、というのは読んでいて伝わりました。

井上敏樹×虚淵玄

最初からそうとう突っ込んだ話から始まる(笑)。平成ライダー立ち上げ当時から関わり、現場の推移を知っている敏樹氏と、まさに最新作を手掛け現在の状況を肌身で知った虚淵さんの話は、そりゃ濃くなるに決まってるよ!とはいえ、敏樹氏はここ数年は『オーズ』の映画に手を貸したくらいで現場から離れてらっしゃる。だから、「え?そんなことになってるの?」という反応が我々ファンともリンクしていて、虚淵さんから聞きたい話が引き出されていく。そこは意図したものではないでしょうが、良い組み合わせになりましたな。

なんかもう、イイ話とテケトーな発言が入り混じって、楽しい(笑)。ボロボロになった虚淵さんをゴーカイな敏樹氏がいなしてあげてて、いいなあ。つうか一年書きとおすってやっぱりそんなに大変なのか…
子猫の話のくだりが好きです(笑)。いや、生き物の生死が関わってる話で「(笑)」もないけど、追いつめられてる時にそういう出来事にでくわしてしまうと、引きずりますよね…

真面目な話では、脚本家は視聴者をどこまで意識すべきかとか、今の時代に仮面ライダーを成立させるにはとか、東映特撮およびバンダイの無茶ぶりについてとか、プロデューサーの存在の大きさとか、ページ数はそんなに多くないんですけど多岐にわたっており読みごたえがありました。
あと個人的には具体的な脚本執筆術の話があったのが嬉しかったな。
それにしても、最近の敏樹氏の発言は、業界を心配するような中身になってきているなあ。

小林靖子×小林雄次

雄次さんはわたしは寡聞ながら存じ上げなかったんですが、『牙狼』や『ゲキレンジャー』、アニメ『セーラームーン』などを手掛けてらっしゃるそう。靖子さんとはこの対談が初対面だそうなんですが、本人たちがおっしゃる通り、ものすごいニアミスっぷり!そういう関係性と、あと後輩にあたる雄次さんが靖子作品大好きっぽくて、ゆるやかな空気感がある対談になっていました。

そういうわけで、雄次さんが靖子さんにガンガン聞いてくれる!俺たちが聞きたいことを聞いてくれる!
靖子うんぬんはともかく、プロット立ててから脚本が会議に通って直しが入るところまで聞ける機会なんざそうないと思うよ。

アニメと実写の違い…アニメの方が自由度が高いかというとそうでもないとか、好きな他作品の話とか、アイディアを出す際の苦労とか、円谷と東映の違いとか、修業時代の話とか…

ちょいちょい靖子にゃんが毒吐いてて楽しい(笑)
靖子「1週間後でいいんだったら、1週間仕事しないよ、私(笑)」
それと、某Pが脚本の句読点まで赤を入れてくる話の靖子にゃんの反応に笑っちゃいましたぜ。でもわたしも同じ立場だったら、「じゃあ好きにしろよ!」って言いたくなるなーそれは。
だからたぶんみんな、夢の組み合わせはきっと夢のままだ(笑)

小中千昭×會川昇

先の二対談が東映特撮だったのに対し、こちらは『ウルトラマン』をメインとした円谷特撮のお話がメインです。
そして先の二対談よりも、厳しいところにつっこんでいっています。なんとなく、わたしの印象として円谷特撮に関わる方はみんなすごくマジメというのがあります。いや、東映特撮も真面目にやってるんだろうと思いますが、割り切っちゃってハジけるところがあるんだけど、円谷ではあんまりそれがないな、と。

っていうか、お二人が相当同じ文脈を共有しているもんだから、話が阿吽の呼吸で進み過ぎて、門外漢にはちょっとわからない。脚注もっと使ってくれ!でも、だから、ファンにはすごく聞きたい話を話しているのかもしれない。

二人が話しているのが現代というよりも原点の話なんですよね。そこをきちっと理解しないと、現代で発展させられないということなんだろう。
あとちょっとお二人マニアックー。

というわけで、実はわたしにはピンとこない話が多かったのですが、でも、つまんなかったということはなく、なんというか、わたしにとっては會川さんの背景が感じ取れたことが大きかったです。
いや、會川さんの脚本って、ライダー以外でも見る機会が多いんですけど、やってることも意義もわかるんですけどなぜその手段を選ぶのかがつかみきれなかったんですよ。
んで、おお、それが60年代なんだと。それも、体感した世代としての60年代ではなく、参考としての60年代なんだと。
おお…これで今まで捉えそこなっていたことが少しは読み解けるかもしれん。というわけで、良かったです。

ただ、この対談だけ編集がビミョーで読みにくくて困りました。お二人が、息継ぎせずに、思いついたことを繋げて話す人で、それがそのまま文字起こしされてるんですよ。そういう、思考に思考がおっかぶさる人たちで、それで深い話が出来るのは伝わりましたが、そんなん文字で読むには辛いわ!


てな感じでそんな感じで、特撮に興味がなくても(そんな人はここに来ない気もするが)脚本家に興味がある人にもおすすめです。