double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

小説 仮面ライダーブレイド

あのバトルファイトから300年…しかし世界は崩壊していた。剣崎は記憶を失くし、始は隠れるようにして人の中で暮らす。
そんなある日天と地と海を割りあらわれるアンデッドの群れ。呼応するように目覚めるブレイド、カリス。二人のジョーカーだけでなく、ギャレンレンゲルの力もまた目覚める…かつての彼らに良く似た二人の男の元に。
果たしてこれは誰がつむいだ運命の糸なのか?
そしてついに二人のジョーカーは再会を果たす!バトルファイトの決着は?
仮面ライダー剣』いまここに真の完結!


著者:宮下隼一
出版社:講談社 (2013/3/7)
ISBN-10:4063148556
ISBN-13:978-4063148558


すみません…最初に謝っておきます。
最初ラインナップ聞いたとき會川さんじゃないから期待していなかった…本当すみません!
いやでも本編での宮下さん担当回は好きなんですよ。始が家出したときの話とか(家出呼ばわり)。
ブレイド』のあのちょっと乾いた薄暗い感じがこの小説にもあります。そしてなにより、剣崎と始の再びの物語!
舞台はがらりと変わり、しかしあの戦いの日のさらにその先が描かれる…これは後日談というより続編、そういわば『仮面ライダー剣 2』

この小説はもうとにかくこの一言に尽きるですな。剣崎と始の再会。『ブレイド』ファンは嬉しいだろうなあ!そしてバトルファイトの決着がとうとうつくというのも大事。本編では「保留」っていう裏技だったものね。まさに真の完結編
とはいえ、ですよ。
わたし、本編のあのラストはそれはそれで一つの前向きな決断として受け止めていたのですよ。親友を失うくらいなら永劫の孤独を選ぶ、でも剣崎という男にとって本当にやりたいこととはそれなんだ、って。
……やっぱり辛かったんじゃないかよ!いやそりゃそうなんだけど。うう。
始もなあ。結局天音ちゃんのところに最後までいられなかったって、それじゃあ封印されなかった意味が…うう。
いまここにきて本編を受け止めきれなくなっているという(汗)。

お話はなんかSFらしいSFだなって思いました。天蓋都市に囚人島に管理社会。近未来ディストピアSFですな。ほかのシリーズのと比べても異色で、バリエーションが広がりますね。
とはいえ専門用語や新しい登場人物続出で、小説を読み慣れていない人は戸惑うかも知れません。ていうか読み慣れていてもバシバシ進むからおいちょっと待てとなるところも(この辺、ほかのにもいえることなんですけどやっぱり小説というより脚本っぽいんですよね)。
個人的には登場人物がみんなカタカナなのが頭に入らないったら…サツキって普通女の子の名前だし混乱しちゃったよ。

これが「2」だって思ったのとほかのと違うおもしろさを感じたのは、たぶん新しい登場人物たちの新鮮さのおかげかな。
橘さんと睦月の代わりにあらわれるタチハラとサツキ。それから剣崎と大きく絡むトウゴっていう男の子。でもこれが単なるオリジナルキャラクターだったらそれこそうんざりしたかもしれないけど、もともとこのお話の構造自体が本編を引き継いでいるから、彼らのエピソード・役割もどこかで本編と絡むようになっている。だから、本編への思い入れがあるわたしたちはその思い入れのまま、でも新しいブレイドの物語を楽しむことが出来たんだと思う。
完全に新作で続編作られたりすると旧作のファンとして微妙な気持ちになることってあるじゃないですか…でもこのノベライズはあくまで『ブレイド』の物語であることを貫いてくれている。良い続編です。

それにしてもしょっぱなから世界が崩壊してるのに「ええっ」ってなった。剣崎が身を賭してまで守ったのに…悪とは別なところで崩壊する世界。無常な感じが『ブレイド』の感じとはいえ。
人々は各地で細々生きるか、ドームに覆われ外界を遮断した南極にある天蓋都市で管理社会を営んで生き延びているわけですが、わりと悲惨。
この崩壊はあのラストから三十年後に起こったそうで、そうすると本編の登場人物のほぼすべてがこの悲惨に巻き込まれているわけで、それを思うと悲しくなります。始も結局天音ちゃんのそばにいられなかったようだし。

始が睦月の彼女の望美のことを覚えていたことにちょっと微笑んでしまいました。
剣崎は記憶喪失者として登場するわけですが、その行動はヒーローそのもの。本質がヒーローなんだよな、剣崎は。
始が動くことで話が集約していくのは本編を彷彿とさせます。
抑圧されることでぎらぎらと覚醒していく橘ならぬタチハラ、若造の青さと潔さの混在する睦月ならぬサツキ、姿は変わっても本質は一緒です。そういう重ねあわせがすごくうまいから、読み応えがあるんだよなあ。
退廃と背徳の匂いのする味付けもよし。個人的にはサツキ周辺の感情の推移が良かった。

物語のオチとして、本作のラストはなんかみんな希望に満ち溢れているのですが、そうはいっても300年前の崩壊・天蓋都市設立のいきさつを見るとまた争いごとが起きるんだろうなあとか穿ったことを考えてしまいます。
でも、剣崎と始はもうなにも躊躇うことなく一緒にいられるんだもんな。一人きりじゃない、二人でいられるなら、きっと大丈夫。この先、なにがあろうとも……


……ってカップルか!(あながち間違いじゃない)