double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

武部さんと毛利さんに関する試論

なんだかんだと言われているのは知りつつも、わりと武部直美プロデューサー作品が好きです。
とはいえそれをはっきりと表明できていなかったのは、どういうところがどうして好きなのか、がまとまっていなかったからです。
現行の『鎧武』がはじまるとき、わたしはこのブログでこんなことを書きました。

まあ虚淵さんに関しては、みんないっぱい語ってるだろうし、それは実はいいんだ。(いいのか)
それよりも起用したのが武部直美プロデューサーってところをわたしは語りたいんだ。

っつーのはですね、わたし『ゴーバス』が終わって次の武部さんの仕事が気になっていたのですよ。
というのは、これまで武部Pの手がけた番組は3作ありますが、いずれも井上敏樹小林靖子と武部Pが付き合いの長い脚本家さんばかりだったからです。
本当の意味での独自性っていうのはこの先誰をつれてくるか、誰と組むかだなーと感じていたので。そこで何を見られるのか楽しみにしていたんですが、まさかこんなに早く来るとは。そしてこの角度から攻めてくるとは(笑)。っていうかどういうつながりなんだ。

武部Pの作風はいまのところわりと好きなんで。

そうなのです。わたしは武部Pの特徴というものを言語化したかったのでした。

武部Pの短所であり長所は、あまり我がないことと言えます。番組を盛り上げる、キャラを立たせる、仮面ライダーをかっこよくする…などと言った部分に注力しているのは見えます。が、例えば高寺さんや白倉さんのように抑えようと思っても爆発する主義主張や、塚田さんのように趣味をもはや様式なくらいまで全開にする、といったような「我」はありません。だからこそ、「何が言いたいかわからない」と批判されてしまうのでしょう。

とはいえわたしがこだわるのは、でもやっぱり武部P作品は好きだなということです。短所は確かにはっきり見える、でも、途中でいやにならないのはなぜだろう?
そういうところが今回見えるかも、と考えたわけですが。しかし、ここへ来ても「これだ!」というのが見えてきませんでした
脚本家がほぼ放し飼いであるがために、なんでこの人だったのか?というのが、見えてこない。自分の目標を具現化するために脚本家を選定する、というよりは、おもしろそうな人と組んでいる…
うーん?

とそんなとき、コメント欄で閲覧者の方と会話しているうちに、ふと光が見えたのです。

あ、毛利さんだ。と。

毛利亘宏さんを連れてきたことこそが、武部直美P作品を読み解くのに、大きなヒントになるのではないのかと。

というわけでそんなことを考えてみた記事です。

毛利亘宏さんについて

なんで毛利さんかっていうと。今のところ参戦作品は『オーズ』『鎧武』あと『ゴーバス』だけなんですよね。意外と少ないっていうか、武部P作品オンリー。そこに気づいたとき、ぼんやりと考えていた毛利さんの特徴、武部さんの特徴が、リンクして一つの形になりました。

さて毛利亘宏さんの特徴について考えてみます。
本業は劇団の脚本家さんで、わたしはその作品を見たことはないのですが、紹介文によると、ヒーロー物を下敷きにしているとのこと。そういうところもあって、抜擢されたのでしょう。さすがの構成力とセリフ回しで、ライダー・戦隊での毛利さんの脚本は、おおむね「上手い」との評で一定しているのではないでしょうか。現行の『鎧武』でもコラボ回を振られても+αまで入れてまとめきる手堅さが光っています。
とはいえ、手堅いだけではないがゆえに、出番が少なくても印象に残るわけです。

なんというか。毛利脚本の特徴は、ヒーローおよびヒーロー物に対して、大好きなくせに、そのわりにヒーローに対して一歩距離を置くところ、ではないかとわたしは感じています。
ヒーロー物大好きなんだろうな、っていうのは伝わって、そうすると同じような出発点だと思われる會川さんだとかきださんだとかとあまり区別できなそうにも見えるんですけど。でも、毛利さん一人だけ別の方向いてる。
発端のコメ欄で比較されていましたので出しますと、會川さんとかきださんとか、まずはヒーローがいることが前提で、そのヒーローがなぜヒーローたるのかを補強していく…疑問を投げかけることはあっても、ある意味でそれはヒーローをさらに際立たせるための手段。
毛利さんの話って、ヒーローが一歩遠いところにいるんですよね。そしてむしろ登場人物の葛藤が前景に置かれる。『オーズ』のバッタヤミーの話もそうでしたし、『ゴーバス』のリュウジの同級生の話もそうでした。小説版『オーズ』のオーズの章なんかまさしく。

決してヒーローをないがしろにしているわけではない。救う者として、立ち向かう者としてヒーローは確保されている。けれど、やっぱりヒーローも登場人物の一人として認識されている
あと、ヒーロー物が好きな人って、小物とか設定とかあとお約束とかについこだわっちゃう印象があるんですけど、毛利さんはその辺あっさりしていますよね。


もう一つの特徴が、作風に歪みがある、にも関わらず真っ当に落ち着く
『オーズ』参戦の時は平成ライダーの歪みにまだ嵌まる脚本家がいたのか!ということも衝撃的でした(そこかよ)。
物語に歪みを入れることが好きなタイプなのではないのかしら。そもそもそういう風にストーリーに軸を寄せる人だから、ヒーローを遠景に置いてしまうのかもしれない。
たぶんそういうところが、かなりの繊細さと強度を誇る小林靖子作品にゲスト参戦しても違和感を残さないどころか補強までこなすことをさせているのではないか。
そう、小林靖子脚本と相性がとてもいい。『オーズ』のレジャーランド回は冷静に考えるとなんでゲストであれが書けるんだよ、というツッコミを入れたくなります。
靖子さんもヒーローヒーロー言いながら、その世界で生きる登場人物が繰り広げるドラマに力を割いちゃう人ですからね。

もう少しまとめると、靖子脚本よりももうちょっと真っ当寄り。たぶんこの真っ当成分がヒーロー物を正面から好んでいる部分に対応しているのではないのかと。そんでもってそこが武部さんの特徴につながるのではないか、というのがわたしの現在の見方です。

武部直美プロデューサーについて

さてそんな毛利さんの二つの特徴――ヒーローに対して距離を置く、というところ。そして、そのわりにヒーローは真っ当に収まる。これがどういう風に武部さんは共鳴しているのか。

ではまず、ヒーローに対して距離を置く、というところから。
武部さんは基本的に脚本家にお任せする人である、ということは論を俟たないと思われます。たぶん自分がわくわくしたいんだろうな。
つまり、放任主義。しかも、それがかなりのもの。
で、放任であることでこのような特徴が生じやすくなっている。ヒーローをあまりコントロールしない――すなわち、主人公に隙がある
欠点もあるけどそれも愛嬌!…ではなくて、わりと普通に欠点。
むろんどんなキャラどんな作品にも欠点はありますし、制作側が気付かないことも普通にあります。でも、そういう話ではなく、普通だと、もしかして欠点に気付いていなかったとしても、「欠点はあるかもしれないけどこんないい奴なんだよ!」と持ち上げておきます。保険をかけておくわけです。でも武部P作品にはそういうところがほとんどないのです。

とはいえ。じゃあ、武部さんは無責任かというと、でもそうではない。

ここで二点目の、そのわりにヒーローは真っ当に収まる、が出てくる。
武部さんの仕事には主体性が見られない、という意見は目にしますしなんとなくわかるんですが。
でもおもしろいなーと思うのは、そうは言って、最後の線引きはいつも常識の側でおさまるというところです。暴走させてどっか飛んでいく、ということはしない。
おそらく、普通の人が、アウトになるレベルが5というところで2になる前で口を出すのに対し、武部さんは4まで黙っている、というような違いがあるのではないか。止めるときは止める、ただそれが、本当に危なくなるまでは放置
イメージとしては、広がりに広がった巾着の口を最後にキュッと絞ってエンドマークを出す感じ。…伝わるでしょうか?
最後は締めるという意識があるからこそ、それまでの過程の奔放っぷりがあるのではないか。
逆にいえば歯止めの最終ラインはきっちり理解されているのだと思います。

武部P作品の良いところ

さて、では、武部P作品の特徴のひとつには、主人公に隙があるがしかし最終的にきっちり締まる、ということがある、としましょう。

そこを評価するということはどういうことなのか。すなわち、この記事を書いた発端に戻ります――なぜわたしは武部さんの作品が好きなのか。
なんで落ち着くのか、と問われると、自分の気持ちで主人公を見れるからです。

あんまり先回りしてフォローされていると、「なんかこいつのここ、合わないな」と思った自分の気持ちの行き場がないんですよね(笑)
まあつまりこういうことです。
「お前の言っていることは正しい。だが……気に食わない!」(C)風間大介

正義の味方の主張なんて基本的に正しいわけです。当たり前です。
でも、ガチガチに縛って出されると、逃げ出したくなることもある。
隙がある――自由な部分があると、見ていて安心できるのです。ちゃんと主人公の真っ当さは守られていますしね。
それがあるのが、わたしが武部P作品を好きな最大のポイントなのです。

この先も楽しみだ

現行の『鎧武』も紘汰は自由にやってますね。
毛利さんは頭の良い人なので紘汰の頭の悪さが逃げてしまい、靖子脚本とのマリアージュっぷりからは一歩下がっているのは残念ですが。でもまあ、ゲストなんてちょっと違和感があるくらいが普通なんですけど。

毛利さんに関して一言付け加えておくと、普通に書くと普通にかっこいいヒーロー作品を書いてしまいそうなので、もしもメインを張るようなことがあれば、主人公に歪みを入れ込んでおいて欲しいです。せっかく歪みが書ける人なんで。