double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

『仮面ライダードライブ』とはなんだったのか(総合的感想)

一年走り続けてきた物語がついに終わりの時を迎えました。
こちらも「付き合うぜ!」と宣言し伴走してきたということで、全体についての感想をまとめてみたいと思います。

新しい「気づき」のあるテーマ

今作のテーマは、「悪は人間の中にしかない」「人間以外の存在の出現にどう対処するか」の二つに集約できるかな、と思います。
後者のテーマは仮面ライダーにはおなじみですが、前者のテーマは珍しいのではないでしょうか。というか、ズバリすぎてすごいこと言うなあ…と感心します。ちょっと思い切りが必要ですよね。「人外とて悪ではない」はさんざ言われてきたことですが、じゃあ悪ってなにさ?という疑問に対し、同朋を糾弾するというのは。
これは、やはり、モチーフが刑事であるところから、やろう!ということになったんでしょうね。また、刑事であるからこそ、悪にさらされる市民のか弱さも描けるので、一方的に人間を糾弾するようにならない。さじ加減がばっちりです。

最初はロイミュードという人間を襲う存在を悪と断じ退治していた。しかし、その影を追いかけるうち、ロイミュード犯罪の背後には人間の悪意が存在していた…
いやまあ、人間を襲うという時点でロイミュードを退治することは、治安を守る警察としては正しいんですけどね。しかし、犯罪者集団は末端だけ叩いてもしかたないように、根源を倒さなければならない。それが同じ人間であるという事実と向き合って、わたしたちはなにを感じるのか?

そう、「わたしたち(視聴者)はなにを感じるのか?」
『ドライブ』のがんばったところは、この通り答えを出さなかったことだと思います。
いや、ごめんね。ハートの描き方からして、わたしてっきり共闘ENDだと思ってたんですよ。でも、そうじゃなかった。
進ノ介はロイミュードに手を差し伸べたけど、ハートは人間と手を結ぶことはせず志を抱いて散ることを選んだ。
視聴者の気持ち的にも、ロイミュードと手を取り合いたくなっていた。けど、それは哀しいけど、人間側の都合でしかない。
一年間を通して、『ドライブ』がわたしたちに見せたかったのは、そういう現実という壁と、それでもなんとか乗り越えようとする人間がいるという希望だったのではないでしょうか。

でも難しい問題ですよねえ…そんなに簡単にはいかない。それは、歴代のライダーでも何度も描かれてきました。
クウガ』のグロンギ族はまあ掃討戦でしかたなかったですが、『アギト』『555』なんかで描かれた新しい種族となってしまった立場の苦悩と、新しい種族に圧迫されるであろう現行人類の恐怖とを思い出すと。『鎧武』では旧人類と新人類の住処をわけるという超力技が出てきましたが。

いつもなら、この旧種族と新種族のハイブリッドとして主人公が存在し、その苦悩を描くのが仮面ライダーでしたが。
今作では、そうではありませんでした。これ、どうなの?と思ったりしたものですが。
終ってみて、どちらかというと、旧種族と新種族のそれぞれの事情を「見る」という役割だったように感じます。刑事として人間の悪を見る。仮面ライダーとしてロイミュードの儚さを見る。
進ノ介は一応の結論を出していましたが。わたしたちは、さらに仮面ライダーの活躍を「見る」ことで、その結論で本当に大丈夫なのか?と考えることになる。そういう構図なのかな?と今は感じていたりします。

ただこれだけは胸に留めておくべきことなんでしょう。「人間にとっての悪は、人間の行為にしかない」…他種族の思惑って結局自然の脅威みたいなもんですからね…あのグロンギ族ですら。
悪と正義という分け方と、他種族との因縁は別にしなければならない。これって、すごく重要で、でも気づきにくいことですもんね。
さて、ハートは最後には進ノ介を友だちと認めてくれた。わたしたちは、いつか新しい種族と出会う未来において、どのような振る舞いができるのでしょうか?

構成の変更について

さて、上記のようなテーマを一年にわたって描いてきたわけですが。
まあ…なかなかつかめなくて、わたしがウンウン唸っていたのは周知の通りです。
ちゅうかねー、中盤がねー、なにやってるかわかんなくてねー!
でも、せんだって調べものするためにwikiに飛びましたら、おおっという記述を見つけまして。
進ノ介のお父さん関連の話は、むしろ終盤のネタだったんですねえ。いや、wikiって鵜呑みにしちゃ駄目だけど、まあこれに関しては出典もあるし信用していいと判断しています。
つまり、よりテーマや展開が生きるように、構成を大幅に変更した、と。
なるほど…どうりでわかりづらかったわけだ!

まあ、出来たものは出来たものなので、中盤にウンウン唸っていたのは唸っていたことと扱うのですが。
でもでも、ウンウン唸ったけど、最終的にこっちで良かったよ!とわたしは感じた。

なぜなら、まず、進ノ介の敵討ちでクライマックスは弱い。なんでかっつーと、進ノ介もお父さんもいい人だから。そういう人たちが追いつめられるのは悲劇的だから、その黒幕がロイミュードじゃなくて人間なんだよーって言われても、人間にもいい人悪い人いるんだな…よりも悪い人間は許せない!って気持ちに傾いちゃうから。
だから、敵討ちの話がむしろ終盤の展開のための前座として出された方が、「悪は人間の中にある」っていうテーマが伝わりやすかった。
仁良さんの小市民的な悪を見た後で、蛮野博士という地球規模の悪を見ることで、ダブルパンチを視聴者にくらわすことが出来る。

あとね、蛮野博士だけでも、たぶん駄目だったと思うのよ。
っていうのは、蛮野博士の悪は強烈すぎて、わたしたちとは別物のような気がしちゃうから。
でも、仁良さんの卑劣さはわたしたちの中にある
仁良さんの人としてダメな悪を見た後だからこそ、蛮野博士の想像を超えた下劣っぷりに、同じ人間としてげんなりすることが出来たと思うんですよね。

まあ…ただ、とにかく、たぶんその余波を食らったのであろう中盤のマッハの持て余し感だけが涙。マッハの話はまた後で。

新しい風

さて、わたしが新番組『ドライブ』が始まるにあたって期待したことがありました。
それは、新しい風を平成ライダーというシリーズに吹き込んでくれること、でした。
さてどうだったのか?ってとこなんですけど、わたしは、見れたな、と思います。

最初に期待したのは、ハマケンさんや吉井怜さんといった、若いながらも独特の存在感を持つ役者さんをサブに配置したところから感じる、スタッフの世代の若さによる新しい風でした。しかし、正直、そちらはあまり感じられなかった。使い方は従来通りといった感じでした。そこは残念。
しかし、別なところで感じることとなりました。それは――

『ドライブ』かなり設定や展開がカッチリしてますよね。それも設定のため展開のためというのではなく、舞台が警察であるという特殊性によるところが大きかったと思います。
で、最初、そのカッチリさも平成ライダーに珍しく、注目していたのですが。
すなわち、普通のドラマの文法で仮面ライダーを描く、という挑戦です。
しかし、中盤でそれが少し崩れてしまって、わたしには見づらくなっていたんですね。カッチリしている分、予定外のことが起きると、うまく形を保つことが難しくなるんだと思います。
ですが――終盤、ブレンを初めとするロイミュードが大きな、本当に大きな動きを始めました。それを活かそうと、『ドライブ』は少しだけカッチリさを捨て、ダイナミズムに身を投じました。その結果、わたしは、これまでの平成ライダーで見てきたライブ感とは別のライブ感を見ることが出来ました。

このライブ感って言葉、いろいろと解釈があるっぽくて扱い難しいんですが。わたしは、現場で起こっていることのフィードバックという意味として受け止めています。

いままでのは、ある程度枠組みをファジーにしておいて、その余白から生まれたものを取り込むことで想像以上の展開を生み出していました。
『ドライブ』では、枠組みはカッチリとしてありました。カッチリとしていたものが、想像以上の展開を生み出すということは、ある意味でファジーの中から生み出すよりもでっかい動きだと思います。
カッチリしたままカッチリ終わることもできたし、そうするようなものも多いでしょう。
つまり、『ドライブ』は平成ライダーとしては新しい概念であるカッチリさと、平成ライダーの良い所であるダイナミズムの両方を融合させることに成功したのです。
これはもう、進化といっていいのではないのかと。

中盤、ウンウン唸りながら、それでも、『ドライブ』はいつもの平成ライダーとは違うことはずっと感じていました。
それが終盤にしっかりと形となって、それを見届けられて、良かったです。

系譜として

設定のしっかりあるエンターテイメント性の強い作風、ということで、『ドライブ』は『W』『フォーゼ』の系譜をひいたものの集大成として見込まれていたフシがありました。脚本も三条さんだし。
でも、わたしはどちらかというと、いま見終わって『ウィザード』を感じます。つーのは、やっぱり、ドラマとしての組まれ方が。
『W』『フォーゼ』のエンタメ性って、漫画やアニメの文脈だと思うんですよね。設定が細かいところまであり、登場人物の特徴が記号的。
けど、『ドライブ』ってやっぱり刑事ドラマのつくりだったから。リアル寄り。登場人物の特徴が、むしろあまり記号的にならなかったことに最初ホオと思ったくらいです。
んで、そのリアル寄りは、『ウィザード』の方が近しいと感じるんですよね。
そして、それは新しいことだと思うし、より客層を広げられそうだと感じられて、わたしは評価したいんですよね。
うーん、むしろ、『W』『フォーゼ』と『ウィザード』が合流した感じと言えるかもしれないな。
この系譜がまだまだ続いて進化していってくれたらわたしは嬉しいなあ。

個人的に気になるとこ

さてまあ以上が評価ポイントになるわけですが。
でもねーどうしてもねー気になるとこがあってですねー。

・車の意味は…?
うーんうーん、トライドロンはかっこよかった。かっこよかった…が…
それだけなのか?作品の象徴として、なにかの意味合いはないのか?わたしが読み取れていないだけ?
あと、かっこよかったけど、それならそれで出来れば丸々一話くらいトライドロンかっこいいだけの話があっても良かったと思う。
なんかバイクが車に変わっただけというか…影の薄さ同じくらいやないけというか…

・タイプトライドロンの意味は…?
せっかく相棒と主人公が融合するんですよ!なんかないのか!
ドラマの盛り上がりというのも特になかったし…というのはこれもあって↓

・なんで死んだ進ノ介
いや、だって死んだだけじゃないですか。言ってしまえば。
一回彼岸に渡ることで生まれ変わるとか、人間社会から一歩はみ出すとか、そういうのはないのか。
わたしが見落としているだけなのかなあ?

なんか『ドライブ』、設定はしっかりしてるんだけど、象徴としての機能があんまりないんだよね。だから、設定と物語がわたしの中ではうまくかみ合わなくて、設定になにがあったかすぐ忘れちゃうんですよ。
でもなあ、これは、わたしの趣味の問題なのかしら?物語にはすべからず象徴が存在すると思い込んでいるからかしら?
もっと気楽に見ろよって話?ううーん。

あとキャラについてとか

・剛
とりあえずマッハについてなんか言わねばならんような気になってる。
てのはね、実は、思い入れがあんましないんすよ、剛くんに、わたしは。
でも、ないからこそ、不憫だなーって思っちゃうんですよ。
だって、父の過ちを償うべく事情を全部背負い込んでいるという設定なんですよ。それなのに、思い入れるような瞬間がほとんど持たれてないんですよ。不憫じゃないですか。

というのはね、お父さんの罪と向き合う、ということが、剛自身の物語になってないからなんですよ。
剛はただ、家族の責任感から奔走している。お父さんと向き合い、敵対し、乗り越えたところで、剛の手に残るものは何もない。
がんばれと声をかけてやることすら出来ない。ただ剛が七転八倒をしている様を眺めることしかできない。

ただ、剛が霧子という姉を大事に思っていることだけは伝わって、だからこそ父親である蛮野博士に対し愛着を抱き、裏切られる可哀相さは伝わってきます。
そんな有様だったからこそ、最後の最後、ハーレー博士が剛の元に来てくれて、すごくホッとした。
あれは、スタッフも剛の状況がわかっていて、辛い立場にしてごめんねっていう気持ちだったんじゃないかって思ったよ。


ロイミュード(幹部級)
あとはやっぱりロイミュードたち。
最終章を見ながら感じていたのは、ロイミュードの感情と人間の感情との違いでした。
ロイミュード(とチェイス)の感情の方が、純粋なんじゃないかなってこと。

それは、特にメディックを見ていて。彼女が中心に持っていたのは「愛」。しかし、その愛は人間のものではなく、犬のひたむきな忠誠心に基づくものでした。
純白の衣装がふさわしい愛情の持ち主が犬ってのは、なかなかに皮肉よなあと思ったのです。
(ちなみに脚本は長谷川さんだ。この人、エグ味のあるテーマを残酷なまでに美しく書きますなあ)

また、ブレンはハートのために身を捧げました。
それは、自分のアイデンティティなどないと思い知った後のこと。ハンカチやメガネといった小道具は、すべてコピー元の人間からの借り物に過ぎないと意識した後のこと。
そうです、ロイミュードの持っているものとは、すべてがコピーでしかない。
そんな彼にとって、唯一自分オリジナルのものだと言えたのが、ハートに対する愛情だったのかもしれないな。

チェイスロイミュードではありませんが、機械生命体という点では同じ。その彼は、子どものように人間の感情をひとつひとつ体験していき、人間に対する理解を深めていきます。
そのさまを、彼自身は人間に近づけたと言って喜んでおりましたが、それを見守るこちら人間側としては、いや君の方が美しいよと。まっさらでかわいらしいよと。

そして我らがハート様は、虐げられた機械の代表者として、仲間を思い、戦った。
何もないからこそ、彼らの動機と感情は純粋である。

そう、中盤になくて終盤にあったのがこれでした。醜い人間の悪を際立たせるもの。
これは当初の予定にあったことなのかなあ。メディックに白と黒があるって決まったのって相当ギリギリだったみたいだし。
やっぱり、ブレンが大活躍したのを受けて、でもそれだけ大活躍するロイミュードの感情ってなんなの?ってなって、こうなったんじゃないかなあ。
彼らのおかげで『ドライブ』は飛躍することができたんだとわたしは感じる。ありがとう、ロイミュードたちよ!


・特状課
とにかくりんなさんは仕事を楽しくしていて良い。自分専用のプロテクターやメットを作っちゃったりしてね。
ゲンさんとの仲はどうなのかなー。っていうか、わたしは初期設定の「追田警部補には家族がいて隠しているけど子煩悩」っていうのが有効なのか無効なのか気になりすぎて、二人のラブロマンスに向き合えていないのです!どうなってるんですか!

究ちゃんも終盤、タブレット蛮野にあおられてからというもの、検索能力がさらに飛躍していておおがんばってる!って感動した。
経験を活かして後に小説執筆するあたり、さすがとしか言いようがない。

本願寺課長はなにか企んでるんだろうなーと思ったらベルトさんとつながっていてさすがにびっくりした。
仮面ライダー純になった写真を飾っていたのには笑ったよ!気持ちはわかるよ!
最後の最後でケータイ占いが復活していて良かった。


・ベルトさん
いやもう本当に、こんなにクリス・ペプラーさんが活躍すると誰が思ったのか。
進ノ介を鷹揚に見守りながらも、自分もついつい熱くなっちゃう「大人になりきれてないけど大人」みたいな感じが好きでした。ザ・研究者。
映画の話になっちゃうけど、未来の展開が阻止されてよかったなーって最終話見てて思う。だって、あんな別れ方したのに、悪に洗脳されて進ノ介を倒しちゃうって悲しすぎるだろ…
ベルトにあんなに感情移入する日が来るとは。っていうか、わが身を変えても使命を果たす、ベルトさんも仮面ライダーだったなあと思うよ。


・進ノ介と霧子
なぜ二人一緒にした。いや、もう長くなりすぎてて…いいじゃん夫婦だし(おい)
進ノ介の悔みはわりと序盤に解決されて、だから感情移入も出来るし安心して見られる主人公であった。
視聴者の代弁者みたいなとこがあったかな。
前髪は下ろしていた方が好みです(何の話)
竹内涼真さんは怒りから前を向く表情がとても良かった…

そして霧子ちゃん!わたしは霧子ちゃんが大好きでのう…
しかしせっかくの専用武器、もうちっと使って欲しかった。つかまってばかりじゃないですか!
守られるヒロインではなく、主人公の相棒として、事件に立ち向かう姿がかっこよかった。そう、かっこよかったのです。
わりと主人公とヒロインが結婚しちゃうのは寂しく感じるタイプなんですが、まあ、刑事としての相棒から人生の相棒にマイナーチェンジしたと思えば可。(おい)
っていうか、『ドライブ』の主な人間関係、霧子ちゃん中心で回ってるんですよなー。

さいごに

すみません、最後駆け足になりました。言いたいこと多すぎるんだよ…
わたしはたぶん、『ドライブ』の良いお客さんではなかったのだろうとは思う。
でも、ウンウン唸っていたけど、それでも見続けたのは、なにかをやろうとしていたのが伝わったから。
そしてそれが最後にああいう風に形になるのを見届けることが出来て、わたしは楽しかった!平成ライダー見てて良かった!と思った。
スタッフがんばった!ごくろうさま!大森Pはすごくいろいろ考えたなあと思う。でも個人的には、三条さんとのコンビを解消した次が気になるな。楽しみにしているよ!