double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

ユリイカ9月臨時増刊号 総特集平成仮面ライダー 1.人物

キャストインタビュー

役者/福士蒼汰白石隼也、井上正大、綾野剛桜田

この人選は、ひじょーに時期的ですよねえ。このときちょうど『フォーゼ』から『ウィザード』への移行期だったのと、『スーパーヒーロー大戦』の時期が重なっていたのが、ひとつ。綾野さんの取り上げは、彼がこの時期にわかに注目を浴びたことから。桜田さんは、おそらくですが人気作のひとつ『電王』から一人出したかったんじゃないかな。

正直、それぞれの内容はそれほど尖ってはおらず。ほかのところでも聞ける話だなーって感じ。ただ綾野さんのだけは濃いな。これはひとつに他の四名と違って綾野さんだけ出演作が終了してから長いのとその間にライダー関係のインタビューを受ける機会がなかったからってのが理由でしょうな。だいぶ具体的だし。澤田の死のあたりの演技について、かなりおもしろくわたしは読みました。『555』ファンにも読みどころだと思います。
ほかのところでの綾野さんのインタビューがどうなってるかまでは全くわかりませんが、朝ドラ以降でファンになった人にはなかなか新鮮な内容だと思います。ほかでは聞けないと思うなー。…ただし朝ドラ以降のファンがこの内容を求めているかどうかはわからない(笑)。

綾野さんはさておいて、ほかの主役級を演じた役者さんに共通してされている質問がさすが総特集ってところで注目ポイント。「あなたの演じたライダーにおける正義とは?」これはそのまま作品論にも通じますよ。
わざわざ書き出しませんが、感想としては「さすがだなー」。わたしの友人のイケメン俳優の追っかけの人は「マネージャーが答えを用意しているパターンもある」って言ってましたが(笑・そのインタビューに対してじゃなくて、役の読み込みに関してアドバイスしているってことですけど)、でもその答えがほとんどまっすぐ役を射抜いているんなら問題はないじゃないですか。捉えた上で役をやっているって、当たり前の話ではあるんですけど、やっぱりすごいなって思います。
というかそもそも、ただ「かっこいい」をだけやるのではなくて「どういう正義なのか」を訊ねられ答えを用意しなければならないのが平成ライダー…ってやっぱりおもしろいシリーズですよね。



製作者インタビュー・対談

制作側/白倉伸一郎井上敏樹小林靖子高岩成二
こちらもわりとぬるめ(笑)。これまで関連本を読んできた人には既知というか、なんかこー…馴れ合いというか(おい)。
白倉さんは理論武装してしまう/できてしまう人だから、インタビュー読んでも言葉通りに受け取るわけには行かないし、靖子さんも敏樹氏も自分は裏方であるっていう意識が強烈にあるから自分語りをしたがらないんですよね。
なので挑戦的に言うとインタビューはおまけでその周辺論のほうが本体。食玩の「食」の部分がおまけに逆転してるよーなものです!(言い切った!)

特に井上伸一郎「初期平成ライダー考」という名の高寺/白倉論というか分析はこの本の白眉!とまで言い切りましょう。
なんで平成ライダーがこんなわけのわからないものになったのか、という疑問に対し、これ以上ない答えを返してくれています。さすが実際現場を見てきた人は違うぜ。わたしはこれを推す(笑)。

矢内賢二「小林靖子河竹黙阿弥もとてもとても素晴らしい。
小林靖子、ひいては「『電王』がなぜこんなにおもしろいとみんなに受け入れられるに至ったのか」についての論なんですが、なんというか、「特撮」とか「ヒーロー物」を含みながらもより広い「芸能」という視野で捉えているのが、広範に人気を博した『電王』を評するのにもしかしたら一番合ってる試みなんじゃないかしら、これまで出た『電王』論の中で。
そもそもが伝統芸能的要素を有する戦隊・仮面ライダーについてを伝統芸能の評論家に語ってもらおうという企画が良し。さすが『ユリイカ』ナイスチョイス!

これらに比べると岩下朋世「誰が変身しているのか?」は結局「『電王』論」なんで、それは各作品論にもある項目だし、内容はそりゃ違うんだけれどももっと違うのが読みたかったなー。『電王』におけるキャラクター論は確かに興味深いけど、『DCD』でリ・イマジというものが行われた以上キャラ論やるんならそこまで含めた方がいいと思うし、小林靖子論やるんならもっと別の切り口がいくらでもあったと思うし。
どっちかっつーと、『電王』で作品論とは別に一項目立てられるってところに、『電王』の人気を感じました。

井上敏樹×宇野常寛×井上弘美の対談は、前者二人はいいとして川上弘美さんがなぜここに!?でも確かに川上さんの小説における食事の存在って敏樹氏のそれに通じるよね。あとセックスの問題も。
聞き手のおかげか敏樹氏がノってる感じがします(笑)。そんなに多くの敏樹氏のインタビュー読んだわけじゃないんで、かなりおもしろくわたしは読みました。
川上弘美氏の大根とアンドロメダの比喩による井上敏樹論は短いながらもひじょうに輪郭がくっきり濃く描き出されていて、敏樹氏ファンも川上弘美ファンもどっちも読むとおもしろいと思います。…川上弘美ファンが川上弘美目指してこの本拾い出すかなー?(笑)みんな近くの川上弘美ファンに教えてあげよう!

高岩さんのヒーロー観がある意味率直にヒーローのような気もしました。

で、宇野常寛「『リトル・ピープルの時代』その後」
『リトル・ピープルの時代』の読者で興味を持っている人には、この「つづきのはなし」は興味深いのではないかと。
…ってなんのこっちゃいなな感想ですね。
でっかく補足!



なぜ今、平成ライダーなのか

ていうかですね。なんで今、『ユリイカ』で平成仮面ライダー特集なのかっていう話ですよ。
それは平成ライダーの流れというより、この宇野常寛という批評家の流れでなのです。

この方の文章を読んだことがなくても、名前は聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。最近はテレビにもよく出てるようですし。

宇野さんは現代文化を通じて社会批評をしている若手の批評家です。すでに著書は二作あって、『ゼロ年代の想像力』(2008)と『リトル・ピープルの時代』(2011)。その二作、特に『リトル』の中で、テーマとしてほとんど中心に位置させているのがなんと我らが平成仮面ライダーシリーズなのです。

別に宇野さんの主張を知らなくてもこの本は楽しめますが、ただ、宇野さんの著書二作があってこの増刊号がおそらく企画されたのだとは知っておいていいかと思います。読んでいて、なんか不分明だなーとか何と戦ってるのかがわかんねえとか感じましたら、それはだいたい『リトル』のせいです。
売れたからなー、『リトル』。反響も大きかったようだし。
『リトル』ではその時点で最新作だった『W』までしか扱っていません。なので、この本では『OOO』と『フォーゼ』について触れているわけです。

ちなみに宇野論ですが、この著書二作においてわたしはわりと好きです。まあ、同じような興味を持って見ているわけですからこのシリーズを。