double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

小説 仮面ライダー電王 東京ワールドタワーの魔犬

2013年に俺、参上!

著者:白倉伸一郎
出版社:講談社 (2013/7/26)
ISBN-10:4063148580
ISBN-13:978-4063148619

お も し ろ か っ た です!!!すみません、白倉さん舐めてました(笑)。
いやー、おもしろかったなあ。しかもふつーにお話としておもしろかっただけでなく、完璧に『電王』でした。また彼らの物語を読めて嬉しいぜ!
電王は白いバックに良く映えるな〜。

難しい話はさておき、「魔犬」騒動を皮切りにイマジンのにおいをかぎつけて、誰が契約者なのか、なにがイマジンの狙いなのかを探るのは本編と同じ構造です。なので、あのなつかしくも愉快な『電王』をもう一度ってな感じでふつうに良作!素晴らしい!

さて、ではそういうわけで、時間は進んでいても後日談というより新しい一話かな、これは。分類するなら『W』の小説版みたいなものかな〜……と思っておりました。途中までは。
でも最後まで読んで、あのオチというか締めを見て、ああやっぱりこれは『電王』その後の話なんだなって思いました。
その辺にも触れつつ、では以下ネタバレを含むので畳みます〜。


あの懐かしい『電王』をもう一度

いやー、完璧に『電王』でしたね。それがなにより楽しかった。
しょっぱなから尾崎と三浦の掛け合いで、いきなり胸がいっぱいになりました(笑)。うわー、これだよ、これ!

タロスズ&デネブの扱いがおもしろい。
なんと彼ら味方イマジンは、存在すれども実体はなし。デンライナーの中ですらも姿を現しません。完全に良太郎の中に住み着いている状態です。
これがたぶん本来のイメージなんでしょうね、『電王』のフォームチェンジはもともと「多重人格」が発想の根幹だから。考えて見れば、目の色が変わるのも、声優がそれぞれつくのも、ウィッグかぶるのも、果てはタロスズのスーツがあるのも、「便宜上」ですからね〜。「今、別の人格がくっついていますよ」っていうのを示すための。
そうそう、ちなみにハナさんも20歳の姿のままです。これも本来の姿ですね。

たぶんそれもあるんだろうな〜、この小説が「良太郎の物語」って強く感じさせるのは。本編で否が応にも存在感を発揮して、『電王』の代名詞までになってしまったモモタロスがこのお話ではそれほど前面に出てこないから。――このお話は良ちゃんのための物語なんだ。

…そして、さらに言えばわたしたちファンのための物語。執筆者の白倉さんも含めて。


書き手の想い

これを読んで、まずはじめに思ったのは、「白倉さんすげえ!」でした。
上手い・下手、の話じゃないですよコレは。テクニックの問題じゃない。この小説、台詞も行動も完全に『電王』で、で、それがうまいとかどうとかじゃなくて、白倉さんはここまで『電王』と一体になってたんだってびっくりしたんです。

このノベイラズシリーズ、基本的に関った人が筆を取っていますが、その中で特に思い入れが強いなと感じるのは荒川さんの『クウガ』と井上さんの『555』、そしてこの白倉さんの『電王』ですね。ほとばしるなにかが物語を書かせている。

白倉さんは『電王』というものがとても好きで大切なんだなあ。
でもちゃんと、それだけでいいって思ってるわけじゃないんだなあ。すいません、舐めてました(笑)。


『電王』は終わらない物語?

エピソード・レッドで愛理さんと侑斗の恋愛感情について、わずかなれども言及がなされました。たぶん、あれがひとつの波紋になったんだろうな。

『電王』は終わらない物語、あるいは終わらなくていい物語なんて言われますが。本当のところ、そうじゃないんですよね。っていうのは、ハナさんの一件
物語に収拾をつけるためああしたオチが生まれましたが、それは一時しのぎにしかならないのです。
いつまでもハナさんを宙ぶらりんのままにしていていいの?侑斗だって、いつまでも行ったりきたりでいいの?そして愛理さんは?
それは良太郎にも向かう矛先です。この小説であれから6年経ってまだ君はプー太郎かい!それはどうなんだ!

とはいえ、「そんなことどうでもいいじゃん、いいじゃん、スゲーじゃん!」って言われちゃったら、それはそうなんですよね。
「明るく楽しいのが『電王』でしょ?目をつぶって楽しもうぜ!」って言われちゃったら。そしてそれを提供されちゃったら。だって大部分の人はそれを楽しんでいるわけだし、わたしだってそうなったらそうなったで別にかまいやしないのです。「『電王』楽しいね」でいいのです。

でも本当は、そうはいかないんだよなあ。

一話完結で、でっかいストーリーも正義もなく、良くも悪くも明るく楽しいお話。というのが、『電王』のイメージではないでしょうか。
それに異論はありませんが、言うほど能天気な話かというと、そうでもないと思うんですよね。
たとえばふんわりした愛理さんには大きな闇がある。それを共有するように、良太郎も闇を抱えている。イマジン退治だって薄氷を踏むようなもので、一度でも失敗してしまえばそれはもう取り戻せない。侑斗とデネブは言わずもがな。タロスズだって。
『電王』には闇があります。みんな、はかない。その反動のような狂騒を、だからわたしたちは愛するのかも知れない。
そんな物語を、「明るく楽しい娯楽作品」だけで終わらせるわけには、やっぱりいかないんだ。

とはいえこの小説版でそれのカタをキッチリつけられたかというと、そうではないのが悩ましいところ(笑)


いつか、未来で――

この小説版では本編から6年の月日が流れている。みんな歳をとった印象もないけど、時間がすぎたことをみんなちゃんと知っている。事件を追う中で、良太郎は自問する、させられる。
「この風景はいつまで?いつまでここに甘えていていいの?

だからこれは良太郎の物語。それと同時に、『電王』が大好きなわたしたちの物語。

物語の締めで、ハナさんは言います。イマジンの真の狙いは、ミルクディッパーを消すことだったんじゃないか。いくどとなく、特異点である良太郎が消されかけたように。
ミルクディッパーそのものには、特異点のような意味はない。でも、この楽しいお店が――すべての『電王』らしさが集まってくるこのお店が存在するかしないか、それが世界には――『電王』には大事なことなのかもしれない……
それはたぶん、白倉さんのことで、そしてわたしたちのことでもある。そこに在ってほしい、なぜなら、大好きだから

本当に『電王』を完結させるためにはあの楽しい風景を壊さなくちゃならないのかもしれない。それは必要な痛みで、でも。

良太郎はけれど決断はせず、ただ強く想います。「いつか、未来で」――それは一見、現状に対する甘えかもしれません。そうではないとは言い切れない。けれど、だけれど、せめてギリギリまでは見定めさせて。もしかしたら、最後の一瞬、なにかが変わるかもしれないから――

思い返せば『電王』は、そして良太郎は、そんな風にして戦ってきたのでした。そうした「やわらかな頑固さ」が、『電王』らしいといえばらしいのかもしれません。
待って、ほんのちょっとでいいから――

ああ、だから、今回ばかりは見逃そう。ムズかしいところに触れておきながら『電王』が終わらないことを、見逃そう。しょうがないね、白倉さん。
だけど、もしこの先、この小説みたいな企画が――『ネオジェネレーション』みたいなのではなく、もっと本編の延長線上の企画が持ち上がることがあったなら――そのときは、「未来」を見つけて欲しいな。

……ああわたしも結局『電王』には甘いなあ(苦笑)。


あー、おもしろかった。

それにしてもこの小説での白倉さんの手腕は見事でしたね〜。数ある要素をさばききり、ボリューム満点・てんこ盛り。
でもこれでわかりました。そうなんだよね、『電王』は、良太郎がいてタロスズがいて愛理さんがいて、侑斗がいてデネブがいて、ハナさんがいて、デンライナーがあってオーナーがいてナオミちゃんがいて、尾崎がいて三浦がいて、契約があって契約者がいて、そういうすべてが『電王』の世界。
『電王』は核がない分、全体を描かなくちゃならない。ひとつでも欠けたらそれは別のものになっちゃうんだ
あながち、『DCD』でリ・イマジネーションがされなかったのはその辺もあるのかもしれないな。

ちゃんとジークまで来て、なおかつギガント戦まで入れて、ああ本当にあますとこなく『電王』。ちょっと良ちゃんの不運要素が足りなかったけど、成人式のとき熱出したってエピソードをカウントに入れればクリア。
キンちゃんの人情話がスベるところとか、いいなあ。

動物が契約者ってのも新しくてGOOD。
契約者周りの話はちょっと入り組みすぎててわかりにくいけど、よく見ると本テーマである良太郎の迷いにつながってくるから、良し(笑)。ていうか、うーん、良太郎の怒り方、好きだなあ。「それなのに、あなたは勝手に傷ついている」。この怒り方はまさしく本編の良太郎だし、それはすなわち靖子さんの怒り方だし、ってことは白倉さんの怒り方って靖子さんと近いのかもしれないな。

小説版『DCD』における『電王』を外から見た良太郎、この小説版『電王』を中から見た良太郎、と分けると、ちょっとおもしろいかもしんない。